「大佐?」

「……」

「たーいーさー?」

「……」

「おい?」

顔を上げようとしないロイの身体を軽く揺すってみると、

力の入っていない身体は手にあわせて揺れるだけだった。

どうやらお休み中のようだ。

エドワードは頭を掻くと、それから深い溜息をついた。











寝る羊、待つ狼













それにしても仕事中に転寝とはいかがなものか。

書き途中らしい書類に目を落とすと、なにやら難しい単語が

誇らしげに並んでいて、見ているだけで嫌になってくる。

つまり内容もそれだけ難しいということで、エドワードには

なんの事だかさっぱりだった。まずわかるはずもないが。

まぁどうやら最近この辺りで色々な事件が起こっている

こと等のことについてなのだろうが、あまりにも難しくされた文面では

到底それを理解するのは難しい。嫌がらせにも程がある。

まだ自分が子供なのだからかもしれないが、多分それだけではない、

完全な嫌がらせだと目に見えてわかる。本当、彼も苦労をすると思う。

そして彼の隣にはそれと同じようなものが積み上げられること山の数。

まぁそりゃあお疲れだよな…。

やっと彼の眠りに納得できて、エドワードは接客用の椅子に座り、

近くにある文献等を読み散らかすことにした。

っていうか来た時くらい起きとけよ畜生。





















それからしばらく。

もう一時間は経っただろうか。それくらいになって

ようやくロイの頭が上がった。どうやら起きたらしい。

眠そうに目を擦ってから、時計を取り出し時間を確認すると、

まだ時間があることにホッとしたらしく安堵の息をつく。

そして、そこにきてやっとエドワードの存在に気付いた。

「…いたのか?」

「一時間ほど前から」

「だったら起こしてくれ。寝ていたら仕事にならない…」

「そんなお疲れの様子なのに起こせるかっての。オレは優しいの」

「自分で言うか傍若無人」

「うっさいわ。一回は起こしたけどな、アンタ起きなかったんだよ」

「…え」

「マジ。だから寝かせてあげようか、と」

「あー…すまない」

「は?何で謝るわけ?謝るようなことしてないだろ」

「……」

少しすまなさそうな顔をしたロイの頭を撫でる。

すると彼は弾かれたように顔を上げ、頬を真っ赤に染めていた。

「あれ?なんでコレだけでそんななってんの?」

「知るかバカ…」

「寝起きだからとかそういう理由?だったらウケるんですけど」

「知らないといっているだろう」

「ふぅん?まぁ別にいいけどねー。可愛いしー」

「黙れ」

「はいはい。あぁ恐いなぁ」

「恐くて結構。…で?今日はどんなご用件ですか鋼の錬金術師殿」

「あぁそうだった。この前行った…つーか行かされた視察の報告書」

「ご苦労様」

「本当、面倒なこと押し付けてくれてありがとうございました焔の錬金術師殿」

「いえいえ、そんなお言葉をいただけるとは光栄ですよ生意気豆粒殿」

「…こちらこそ、あの"英雄"様と言葉を交わせるだけでも光栄ですよ万年無能殿?」

「それはよかった。私も今貴方様と同じ心でございます」

「マジ?」

「え?」

ぐいっと顔を上げられ、思わず間の抜けた声を上げた。

「オレと一緒?」

「…それが?」

「つーことはやっぱ両思いなんだ?へぇー…」

「何勝手に解釈してるんだ」

「違うの?」

「…違うの」

「うっそだぁ。絶対オレのこと好きでしょ」

「自惚れるな阿呆」

「だって…そうじゃないとさ、絶対おかしいって」

「だったらわざわざ訊く必要などないだろう。

ほらもう用件は済んだな。早く帰れ」

「やだ。今日は大佐が終わるまで帰らないから」

「はぁ?」

「だって…暇だし」

「嘘付け。大方弟と喧嘩でもしたんだろ」

「……」

「図星?」

「うっさい。まぁ事実そうなんだけどさぁ…」

「謝れよ?ちゃんと。君も」

「…わーってるよ」

「まぁ…勝手にすればいい」

「さーんきゅ。んじゃあ勝手に待たせてもらいます」

「お好きにどうぞ」



















「っていうか終わるわけ?」

「今日の〆物だけなら」

「じゃあ頑張って。応援してるよ大佐」

「そりゃどうも」

「帰ったらとことん甘えさせてやるよ」

「…今悪寒がした」

「なに?風邪?」

「いや…いっそのこと帰らない方がいいかもしれないと思ってな…」