罠とは。

鳥獣を生けどりにする仕掛け、又は 糸などを輪のように丸くしたものを指し、

そしてもうひとつ、人を陥れる計略という意味でも使われる。

それは置いておいて、だ。

「……」

これはきっと罠だ。

嵌まった自分が哀しくなるほど、簡単な罠…。



















I was clean quite taken in













「ほら見ろ。君は」

「もういい喋るな少し黙っといて」

「図星?」

「っだー!!!! 黙っててくれないかな大佐殿?!」

「はいはい」

憤怒か羞恥かで真っ赤にした顔を隠そうともせずに叫び散らかす子供を見て

忍び笑いを漏らしつつ、いつものように革張りの椅子へと座り持っていたファイルを置く。

彼もまた部屋に入ると勢いよく扉を閉め、これまた革張りの椅子へと腰を下ろす。

まだなにかブツブツと言っている様だったが、ここで彼に構うとロクなことにならないから

(というより、面倒な事にならなかった例がない)さらりと流して口を開く。

「これがそのファイルだ。暇なときにでも見ておいたらいい」

「…どーも」

不貞腐れた様子で返事をする子供を見遣り、大人は盛大な溜息をついた。

そのあからさまな態度に子供はムッとした顔をしたが、子供のその態度に

大人は脱力しつつ、心底呆れ返っていた。

「なんだ。まだ怒ってるのか」

「ったりまえだろが!!」

「はぁ…相変わらず餓鬼だなお前も…」

「だぁーれが餓鬼だって!? もう一回言ってみろコラァ!!」

「餓鬼」

「……いい度胸してんなテメェ…」

「餓鬼を餓鬼と言って何が悪い?悪いならその理由を簡潔に言ってみろ」

「んなもん嫌だからだよ」

「なんで嫌なんだ」

「……」

先刻までの威勢はどこへやら、急に黙りこんだ子供を見つめつつ

マズったか、と少々反省しながら、彼の言葉を待つ。

「餓鬼ってさ…子供ってことだろ、要は」

「…だろうな」

「こんな大人だらけの世界で"子供"だって言われて嬉しい奴がいるかよ?

子供だから、とか子供なのに、ばっかり言われて偶に同情の目で見られたりして…

オレ達は子ども扱いされたくないし特別扱いもされたくない。アンタ達と対等でいたいんだよ。

無理だってことはわかってる。けど、少なくともオレは…」

そこで言葉を切り俯いて、黙り込んだ。

確かに軍内部等で彼らを同じ"大人"と見ているものは少ないだろう。

それは体格的なものだけで見れば当たり前のことだろうが、彼らの

能力等で比較をすれば大人と並ぶ箇所も多々ある。

だが、だからと言って大人だと言われるわけではない。

だから、彼らは。

「でも餓鬼は餓鬼だろう」

「テメ…」

「無理して大人ぶって苦しむ必要などどこにもないはずだ」

「……」

「石を手に入れたい気持ちはわかる。だが、此方としても心配なんだよ」

「え…?」

きょとん、とした顔で顔を上げる。

「君達を信じ守ってやるのが大人の仕事だ。だからこそ、君達が

こんなドロドロした世界に入ってきて欲しくは無い」

「……」

「これでも君達を守ってやっているつもりだがね。何しろ威勢がいいから子守が大変だ」

「子守ってアンタ…」

そこでやっと笑みを浮かべる。

そしてガリガリと頭を掻きつつ、子供はまた口を開いた。

「あー…ごめん大佐変な話した」

「今更何言ってる」

「サンキュ。なんか軽くなった」

「お互い様だ。先刻引っ掛かってくれたお返し」

「おまっ…まだそんなこと…!!」

「おや?顔が赤いぞ」

「うるさい!!!」

つい先刻のことを思い出し顔を真っ赤にした子供は

ムキになってギャーギャー叫び続ける。

「アンタだって餓鬼だ餓鬼!!」

「なに?」

「大人ぶってるけどアンタだって十分餓鬼だよ精神年齢三歳児野郎」

「……」

その拗ねたような顔が幼く見えて、本当に子供のようで。

子供はそんな大人の顔を見ながら忍び笑いを漏らすと言った。

「餓鬼みたいな大人、嫌いじゃないけどね」

「…それはどーも」

「うん。好きだよ、そういうトコ」

「え?」

「ほら、早くファイル貸してよ」

「? あぁ…」

…なんて、もう絶対言ってやんねーけど。