flower garden









一面に広がる白い花。

風に揺られ、早花弁の触れ合う音が僅かに聞こえてくる。

冬の今、まるで雪のようにも見える。

「……」

そこは軍人には到底似合わない場所で、まさか彼に

こんな少女趣味なところがあったとは、と少しばかり

驚いていた。いや驚くのが普通だろう。

だが、そんな顔で見詰めていたからか、彼は苦笑気味に言う。

「オレの趣味じゃないよ。昔着たことあったからさ、こんなとこ」

揺れる花々の中、どこか遠くを見詰めていて、

真っ白の中の"金色"は、それはもう一際目立っていた。

「懐かしいな…ウィンリィたちとも行ったっけか」

青と白と金のコントラストが言葉にならないほど綺麗で、

だけど少し自分には眩しすぎて、思わず目を伏せる。

時々、直視できなくなる。

「綺麗だろ?」

不意に言われ、反射的に顔を上げた。

映ったのは、花々の中に立っている一人の少年の姿。

「…そうだな」

彼に対し何が、とは言わない。

「だろ? これがさ、寝転ぶとまたすごいんだよ」

言い終わる前に彼の姿が花の中に消えて、

そっと、姿が見える位置まで近づくと、そこには

青い空に向かいまっすぐに手を伸ばしている彼がいた。

「こうするとさ、空と花しか見えなくて…いい匂いもして」

「……」

「見たくないものも、見なくていいし…」

彼の言う"見たくないもの"が何を指すのか具体的にはわからないが、

大体どういうものなのかは理解することが出来て、それから、

その場にゆっくりと座り込んだ。

「こんなにたくさん咲くのってさ、ほんの一時期だけだろ?

だから母さんは決まって今くらいの時期に連れてきてくれてたよ」

伸ばした手が何もつかめないとわかると、彼は力なくその手を下ろし、

今度は掴むことが出来た花を一本だけ千切る。

「花、ってさ」

「ん?」

「一本でもすごい綺麗でさ、人によっては摘み取ったり

されて…すげー大事にされるじゃん?」

「あぁ」

「それに、花は咲くのが仕事…っていうか、それに

命を懸けてるって感じしない?」

「……なんとなく」

「あはは。だからかな…オレ、花がすごい羨ましくて」

「は?」

思わず変な声を出した自分を馬鹿だと思ったが、

彼も彼でなかなか素っ頓狂なことを言ってくる。

花が羨ましい?

女ですかアンタは。

「だってさ、誰の為でもなく、自分の為に花を咲かせて…

咲き誇って、散っていって。それでまた芽が出て」

見詰めるのは千切った花。

「それなのに人から"綺麗だ"とか思われるんだぜ?

自分の為にやってるのに、人から褒められる、っていうか…」

見詰めていた花を、今度はくるくると回して弄び、

太陽の光でキラキラと輝くのを面白そうに見詰めている。

「人の為に何かをやれるってすごいコトじゃん? しかも無意識で、ってのは。

っていうか…花みたいに自分の為だけに生きることが出来たら

どんなに楽だろう、って思うわけよ、オレは」

「へぇ…」

「こんなのただの現実逃避だよな…。ごめん、こんな話して」

そう言いながらゆっくり起き上がって苦笑する彼に

こっちも苦笑して、草花に塗れた頭をそっと撫でてやった。

「いいんじゃないか? 別に」

「え…?」

「君が何を思おうが君の自由だし。君がどう生きようとも、な」

「……」

「君も綺麗だよ。花の中に立ってる時、正直そう思った」

「なっ…」

ボッと急に顔を赤くして彼は硬直してしまい、

思わずそれを笑ってしまっていた。

「お前だって花と同じだろ。お前がお前たちの為に

やっていることでも、周りはそれに元気を貰ってたりするし」

「……」

「大丈夫だよ、鋼の」

花が揺れ、金糸も風に乗り揺れる。

白い花びらは、青い空に吸い込まれるかのように飛んでいく。

「……うん」

赤くなった頬はそのままに、こくりと頷いた。
















花々が揺れる。

周りには花の甘い匂いが漂って

季節外れの蝶を召喚していた。