「なんでそこに兎が居るんだって訊いていい?」
「もう訊いてるだろ」
「だからなんでそこに兎が居るの。オカシイだろ。此処何?某王国?」
「…ムツゴロウ?」
「正解」
抱いていた兎を無理やり奪うと、可愛らしい顔を覗き込んだ。
バタバタと足を動かして逃げようとするその様は、とてもちっぽけなもので。
「なんだよコレ。飼うの?」
「飼わない」
「じゃーなに?観賞用?」
「そんな兎居るのか」
「オレが訊いてんだから答えろよ。この兎は何ですか」
「……食用」
間。
「うわーすんげぇ酷い」
「なんだ、一応人間の心は持ってたんだな」
「人を何だと…」
そっと、机の上に兎を置く。
「アレ?差し詰めピーターラビットの父?」
「…アレはパイだったか」
「あんまり美味くないらしいけどね」
兎は、じっと止まったまま見つめてくる。
答えるように、頭を撫でた。
「つーか嘘だろ」
「…今頃気づいたのか。馬鹿だな馬鹿」
「いや、普通に分かるし。兎食ってる奴なんて国内じゃ見たことねぇぞ」
「私はある。犬も猫も人でさえも」
「…うげ」
今度は大人が兎を抱き上げて、撫でる。
「だから、此処にいるんだよ」
後ろ足に巻いてある包帯に目がいった。
どうりで歩き方がオカシイと思えば。
「…怪我?」
「多分。血とか出てたし」
「それ多分じゃなくて怪我だから」
「―――私が」
兎は、おとなしく腕の中に納まっている。
「世話しなきゃ、いけないから」
それに頷くと、兎に顔を近づける。
その兎は能天気に鼻を小刻みに動かしながら、首をかしげた。
「馬鹿面がお前そっくりだ」
「……オレが可愛いって言われてるんだって取っていいの?」
「人間のパイって美味いと思うか?」
「ごめんなさい許して大佐」
真っ白な兎は机の上を行ったり来たり、交互に二人の顔を見つめていた。